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大阪高等裁判所 昭和30年(ネ)1063号 判決

事実

被控訴人主張の事実。藤原照男は昭和二六年一二月三一日控訴人藤又毛織株式会社(控訴会社)宛に約束手形二通(金額合計金一、〇六一、三〇〇円、支払期日昭和二七年三月一日)を振出し、右約束手形二通は、控訴会社から株式会社サカイ光商店、岩井産業株式会社、株式会社滋賀銀行大阪支店へと順次裏書譲渡され、右銀行がこれらを満期に支払揚所に呈示したが、いずれもその支払を拒絶されたので、右銀行から前記岩井産業株式会社、株式会社サカイ光商店へと順次裏書譲渡され、さらに株式会社サカイ光商店が昭和二七年四月一日被控訴人へ裏書譲渡したので、被控訴人が右手形二通の所持人となつた。

控訴会社主張の抗弁。本件手形裏書について、(1)控訴会社の目的の範囲外の抗弁、(2)控訴会社代表者の権限濫用の抗弁、(3)商法第二六五条違反の抗弁を主張した。

理由

次に、控訴会社は、同会社の本件各手形裏書は、藤原照男のサカイ光株式会社に対する金員支払義務保証のため本件手形裏書をしたものであり、この様な他人の債務保証の目的で債務者振出の手形に裏書することは、控訴会社の営業に何らの関聯なく、その目的の範囲に属しない行為であり、これは控訴会社代表者藤原喜代楠がその権限を濫用してしたもので、サカイ光株式会社はこれに通謀しており、控訴会社は、右会社にこれを人的抗弁として対抗し得るものであるから、サカイ光株式会社から期限後裏書により本件各手形を取得した被控訴人に対しては、何ら支払義務を負うことなく、他面右保証は、控訴会社の代表取締役藤原喜代楠が、その親族である藤原照男の利益のためしたものであるところ、右喜代楠が保証の目的で前記裏書をなすにつき、控訴会社取締役会の承認を受けていないから、商法第二六五条により、控訴会社は右裏書により何ら手形上の義務を負うものではない旨主張するので、これらの点について考えてみるのに、藤原照男がサカイ光株式会社と取引を開始したのは、控訴会社の代表取締役でかつ藤原照男と親族関係にある藤原喜代楠の紹介によつたものであること、控訴会社の目的が毛織物の製造、加工販売及び右業務に附帯する一切の事業であることは、当事者間に争いがなく、控訴会社が藤原照男のサカイ光株式会社に対する金員支払義務保証のため、本件各手形の裏書をしたものであることは、さきに認定したところにより明らかであるが、証拠によると、藤原照男も控訴会社もともに毛織の機屋であり、藤原照男は控訴会社代表者藤原喜代楠の甥に当り、藤原照男の亡兄藤原利一は、藤利毛織という商号で毛織の機屋をしていたが、昭和一八年死亡したので、昭和二五年頃藤原照男が亡利一の妻俊子と結婚し、同じく藤利という商号で商売をしていたもので、サカイ光株式会社は、藤利毛織とは先代利一の時代取引があつたが、藤原照男の代になつてからは取引がなく、控訴会社とは取引があつたところから、控訴会社の代表取締役藤原喜代楠は控訴会社において保証するから藤原照男に商品を売つてやつてもらいたい旨サカイ光株式会社に申入れたので同会社はこれに応じ昭和二六年一〇月中頃藤原照男に、紡毛糸七十万千六百二十円相当のものを売り渡し、藤原照男から、同金額の満期昭和二六年一二月二五日の約束手形一通の振出交付を受け、これを大阪銀行浜寺支店で割引していたところ、右手形の支払期日がせまつても、藤原照男は、その支払資金の調達ができず、右手形が不渡となつては困るので、サカイ光株式会社から商品を買受け、これを右会社に委託して転売し、その代金で右手形金の支払をすることになり、昭和二七年一二月二五日頃、サカイ光株式会社から梳毛糸紡毛糸の代金合計百六万千三百円相当のものを買受け、その支払のため藤原照男が手形を振出すのにつき、右会社が控訴会社の裏書のある手形を要求したので、控訴会社の代表取締役藤原喜代楠は、前記のように控訴会社が藤原照男の取引を保証したことでもあり、かつ藤原照男振出の約束手形の不渡救済のために、藤原照男が控訴会社を受取人として振出した右商品代金支払のための本件約束乎形二通に、控訴会社名義で裏書して、これをサカイ光株式会社に譲渡したものであること、控訴会社は個人会社のようなもので、藤原喜代楠が一人できりまわしているものであることが認められる。

そして定款に具体的に記載した事業自体だけでなく、その事業を遂行するのに適当な行為もまた会社の目的の範囲内に属するものと解するのが相当であり、控訴会社のような個人的な会社においては、会社が営業を遂行していくのに当り、その代表取締役がその親族またはその親族が経営する会社等とその親族関係があることを利用し、相互に融資材料購入その他に便宜を与えて各営業の円滑な運営を計ることは世上往々行われるところであり、ことにそれが同業者の関係にあるときはなおさら、その相互援助の度合は緊密なものがあることは容易に考えられところであるから、このような場合に、会社がその代表取締役の親族の営む企業に対し資金的援助を与えても、特別の事情がない限りそれは会社の事業を遂行するに適当なもので、会社の目的の範囲内に属する有効なものと解すべきである。

これを本件についてみるに、控訴会社では前記認定のような経緯でその代表取締役たる藤原喜代楠が、同業者で親族の藤原照男の営業の取引を助け資金的援助をする方法として本件各手形に裏書をしたものであり、これを無効にするような特別の事情も認められないから、右各手形裏書は、控訴会社の目的の範囲を逸脱した無効のものとはいえず、控訴人主張の人的抗弁理由となるものでもない。また以上のよう事情のもとに藤原喜代楠のした右各手形裏書行為は、商法第二百六十五条に該当するものではないから、取締役会の承認を受けることを要しない。よつて控訴会社右各抗弁はいずれも採用しない。

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